失われた30年、取り返した3年
――「バブル長者」ではなく「インフレ長者」の時代が始まった?
「失われた30年」という言葉を、私たちは何度聞いてきたでしょうか。バブル崩壊後、日本では土地価格や株価が長く低迷し、物価も上がらない「デフレ」の時代が続きました。ところが、ここ数年で風向きが大きく変わりました。
私はこの2023年~2026年の日本の資産市場を見ていて、ある言葉が頭に浮かびます。
「失われた30年、取り返した3年」
もちろん、日本経済そのものが「30年間の損失を3年間で取り返した」という意味ではありません。むしろ私が注目しているのは、土地・不動産・株式などの「資産価格を取り巻く環境」が、長いデフレ時代とは明らかに変わったのではないかということです。そして、もう一つ。
× バブル長者
○ インフレ長者
という見方もできるのではないでしょうか。
本当に「資産インフレ」が始まったのか?
数字を見ると、少なくとも「物価上昇」と「不動産価格上昇」が同時に進んでいることは確認できます。総務省統計局によれば、2025年の全国消費者物価指数は前年比3.2%上昇しました。さらに2026年8月の全国CPIも前年同月比1.9%上昇しています。
そして不動産については、国土交通省の2026年地価公示で、全国の全用途平均・住宅地・商業地が5年連続で上昇しました。東京圏、大阪圏では全用途平均・住宅地・商業地のいずれも上昇幅が拡大しています。
つまり、
物価が上がる。
建築費が上がる。
人件費が上がる。
土地が上がる。
不動産価格も上がる。
という現象が起きています。日本銀行も、不動産価格の上昇について、物件需要の堅調さに加え、資材価格の高騰や人手不足などの供給要因、投資用マンション取引、海外投資家による商業用不動産取得など、複数の要因を指摘しています。これは、単純に「またバブルが来た」と説明するだけでは不十分でしょう。
「バブル」と「インフレ」は同じではない
ここは非常に重要です。バブルとは、一般的には資産価格がファンダメンタルズから大きく乖離し、その後の急激な調整を伴うような状態を指します。
一方、インフレ局面では、
- 建築資材が高くなる
- 人件費が高くなる
- 土地取得費が高くなる
- 新築価格が高くなる
- 中古不動産にも価格上昇圧力がかかる
ということが起こります。したがって、「不動産価格が上がっている=バブル」とは限りません。日本銀行も、現在の不動産価格上昇について複数の需要・供給要因を指摘する一方、将来的に不動産需要等に対する見方が変化すれば価格調整が起こる可能性にも注意を促しています。
だからこそ私は、「バブル長者」というより「インフレ長者」という言葉で、この現象を考えてみたいのです。
「インフレ長者」とは誰なのか?
例えば、30年前から土地を所有している人。あるいは、収益不動産を保有している人。株式などのリスク資産を長期保有している人。こうした人たちは、インフレによって保有資産の名目価格が上昇する恩恵を受ける可能性があります。
一方で、現金だけを保有している人はどうでしょうか。1,000万円という「金額」は変わらなくても、物価が上昇すれば、その1,000万円で購入できるモノやサービスの量は減ります。
つまり、デフレ時代には「現金」が強かった。
インフレ時代には「何を保有しているか」がより重要になる。
この変化は、資産形成を考えるうえで無視できません。
しかし「資産価格が上がった=豊かになった」ではない
ここにも注意が必要です。例えば、1億円だった不動産が1億5,000万円になったとします。「5,000万円儲かった」と考えたくなります。しかし、
- 売却しなければ現金化されない
- 売却すれば税金や諸費用が発生する
- 買い替える不動産も値上がりしている
- 建築費・修繕費も上昇している
- 相続すれば相続税・遺産分割の問題が出てくる
という現実があります。したがって、「資産価格が上がったこと」と「実質的に豊かになったこと」は同じではありません。この点を無視して、「不動産を持っている人はみんな儲かった」と考えるのも間違いでしょう。
そして、ここから「相続」の問題が始まる
私がこの問題に注目する理由は、単なる不動産市況の話ではありません。私は大阪市中央区本町で、行政書士アヴァンセ法務事務所を運営し、相続・事業承継・M&Aなどの相談に携わっています。
そこで感じるのは、資産価格の変化は、最終的に「相続問題」にも跳ね返ってくるということです。
例えば、親が長年保有してきた土地の価格が上昇したとします。すると、その資産は、「単なる土地」ではなく、「大きな相続財産」になります。
そこから、
- 遺産分割
- 相続税
- 不動産の共有
- 不動産売却
- 相続人間の利害調整
- 事業承継
といった問題につながっていきます。
事業承継・M&Aにも「資産インフレ」は関係する
これは会社経営者にとっても他人事ではありません。会社が所有する土地・建物の価値が上昇すれば、当然ながら会社の財産内容にも影響します。非上場会社の株式を次世代へ承継する場合には、「会社の株価をどう考えるのか」という問題にもつながります。
さらに、会社を第三者へ譲渡するM&Aでは、
- 不動産
- 有価証券
- 現預金
- 借入金
- 事業収益
- 知的資産
- 将来収益
などを総合的に見ながら企業価値を考えることになります。つまり、不動産価格の上昇は、不動産だけの問題ではありません。相続、事業承継、そしてM&Aにもつながる問題なのです。
「失われた30年」は本当に終わったのか?
ここは、まだ結論を急ぐべきではないと思います。2026年現在、物価や地価が上昇していることは事実です。しかし、「これで日本の失われた30年が完全に終わった」と断定するのは早いでしょう。
地域によって不動産価格には大きな差があります。また、物価が上昇しても、賃金や所得の伸びが同じように続くとは限りません。さらに、金利上昇や人口減少、不動産需要の変化など、資産価格を左右する要素もあります。日本銀行も、不動産価格について上昇が続く一方で、価格調整の可能性を含めて注意深く見る必要があるとしています。
だから私は、「失われた30年、取り返した3年」という言葉を、経済統計上の結論としてではなく、「日本の資産を取り巻く環境が、長いデフレ時代から大きく変わったのではないか」という問題提起として使いたいと思っています。
これからの時代に必要なのは「資産を持つこと」だけではない
大切なのは、「何を持っているか」だけではありません。むしろ、「その資産を、いつ、誰に、どのように承継するのか」という問題です。
不動産を所有している。会社を経営している。株式を持っている。預金を持っている。それぞれの資産について、
「自分が亡くなった後はどうなるのか?」
「子どもにどう承継するのか?」
「会社を誰に引き継ぐのか?」
「第三者へのM&Aという選択肢はないのか?」
というところまで考えておく必要があります。
「インフレ時代」の相続・事業承継を考える
私は、2023年以降の日本を見て、「失われた30年、取り返した3年」という言葉が頭に浮かびました。そして、「× バブル長者 ○ インフレ長者」という視点も、これからの資産を考える一つの切り口になるのではないかと思っています。
ただし、本当に重要なのは「長者になること」ではありません。資産価格が変化する時代に、自分の財産と会社をどう守り、どう承継していくのか。その準備こそが重要です。
大阪市中央区本町の行政書士アヴァンセ法務事務所では、相続、事業承継、M&Aなど、企業と個人の財産・権利に関わるさまざまな問題について、専門家との連携も含めてご相談をお受けしています。
「まだ相続の話をするのは早い」
「会社の承継はまだ先だ」
「不動産は持っているけれど、特に問題はない」
そう考えている時こそ、一度現在の資産と将来の承継について整理してみる。インフレ時代の資産管理は、「持っている」から「どう承継するか」へ。それが、これからの時代の重要なテーマになるのではないでしょうか。
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行政書士アヴァンセ法務事務所
大阪市中央区本町を拠点に、相続・事業承継・M&A・企業法務・不動産に関する法務相談をお受けしています。

