生成AIの成果物の精度が上がらない最大の原因は、AIの能力不足ではなく「丸投げ」という使い方にあります。生成AIの「壁打ち」とは、AIを完成品の外注先ではなく議論の相手として使い、前提情報を伝えながら対話を重ねて精度を高める使い方です。壁打ちで使えば、専門性の高い資料でも作成時間を大幅に短縮できます。本記事では、行政書士アヴァンセ法務事務所が実際に行った不動産提案資料の作成例をもとに、具体的な4つのステップを解説します。
「ChatGPTなどの生成AIを使ってみたけれど、型通りの表面的な文章しか出てこない」
「結局、自分で一から作ったほうが早かった……」
ビジネスや実務の現場で生成AIの導入を試みた方の多くが、一度はこのような壁に直面したことがあるのではないでしょうか。
特に、権利関係が複雑に入り組む不動産の提案書や、事業承継・M&A・相続における戦略資料など、「1文字の解釈が大きな金額や法的リスクを左右する専門領域」においては、「AIなんて実務では使い物にならない」と感じてしまうのも無理はありません。
しかし、現場でAIを日常的に活用している立場からお伝えすると、生成AIは、単発の指示を投げて完成品を待つ「丸投げの外注先」ではありません。的確な情報をインプットし、思考をぶつけ合いながら段階的に精度を引き上げる「優秀なディスカッションパートナー(壁打ち相手)」なのです。
なぜ生成AIへの「丸投げ」は失敗するのか?
生成AIへの丸投げが失敗するのは、AIに「文脈」「前提条件」「目的」が伝わっていないためです。
生成AIに対して、次のようなプロンプト(AIへの指示文)を出していないでしょうか。
NG例:
「都内の一等地に建つ高級マンションの売却・権利調整に関する魅力的な提案スライドを作ってください。」
この指示を受けたAIが出力するのは、「立地が良い」「資産価値が高い」「将来性がある」といった、パンフレットに書かれているような無難で抽象的な文言の羅列です。実務のプロが求める、買い手や投資家の関心に応える鋭い切り口は出てきません。
AIは、「文脈(コンテクスト)」「前提条件」「目的」「誰に向けた提案なのか」という情報が欠けていると、一般的・平均的な回答を出力しやすい傾向があります。
つまり、専門性の高い成果物を得るためには、「専門家の頭の中にある前提と判断軸」をAIに段階的にインプットしていく対話プロセスが不可欠なのです。
「丸投げ」と「壁打ち」は何が違うのか?
丸投げは「1回の指示で完成品を求める」使い方、壁打ちは「対話を重ねて一緒に完成させる」使い方です。
| 比較項目 | 丸投げ | 壁打ち |
|---|---|---|
| 指示の出し方 | 1回の短い指示 | 前提・目的・提案先を段階的に伝える |
| AIの位置づけ | 完成品を納める外注先 | 議論の相手・リサーチ担当 |
| 人間の関わり方 | 出力を受け取るだけ | 評価・フィードバック・最終判断を行う |
| 成果物の傾向 | 一般的・抽象的な内容になりやすい | 目的や相手に合った具体的な内容になる |
| 所要時間 | 数分(ただし手直しに時間がかかる) | 30分〜1時間程度の対話 |
実務事例:都心の高額物件の提案資料はどう作ったのか?
当事務所では、都心一等地に建つ数億円規模のレジデンス(いわゆる億ション)について、提案資料(アピールペーパー)を生成AIとの壁打ちで作成しました。資料作成は、不動産業の実務経験を持つ行政書士が担当しています。※守秘義務の観点から、物件や関係者が特定されないよう内容を一般化しています。
このような案件では、専有面積・間取り・築年数といった物件スペックを示すだけでは意味がありません。次のような複合的な要素を、1枚の提案スライドに凝縮する必要があります。
- 周辺再開発に伴う中長期的な資産価値の推移
- 権利関係のクリアランス状況(法務的な安心感)
- 法人取得や事業承継・資産管理会社を通じたスキームへの適合性
- 富裕層特有のプライバシー・ステータスニーズの充足
これをゼロから自力で構成・執筆すれば、丸1日から数日を要する重労働です。そこで今回は、AIを「専属の企画リサーチ担当者」に見立て、次の4つのステップで協業を進めました。
生成AIとの壁打ちはどう進める?精度を引き上げる4つのステップ
生成AIとの壁打ちは、「インプット → ブレスト → 批判的検証 → 仕上げ」の4段階で進めると、精度が安定します。
| ステップ | 内容 | 人間側の役割 |
|---|---|---|
| Step 1 | 情報の構造化インプット | 前提条件・目的・提案先を定義する |
| Step 2 | ターゲット別の訴求ポイントのブレインストーミング | AIの案を評価し、方向性をフィードバックする |
| Step 3 | 構成案の批判的レビュー(壁打ち) | 指摘された弱点を補強する |
| Step 4 | スライド用テキストへの落とし込み | 最終的な表現・内容を確認する |
Step 1:情報の構造化インプット
最初に、役割・目的・提案先・ファクトデータをまとめてAIに伝えます。
物件概要、法的な権利関係、市場環境などのファクトデータは、箇条書きで整理してインプットします。このとき、個人名や所在地など、関係者や物件を特定できる情報は入力しません。そのうえで、「どのような立場で、誰に向けて提案書を作るのか」という前提条件を定義します。
指示文の例:
「あなたは高額不動産の提案資料を作る企画担当者です。目的は、法人オーナー向けに物件取得のメリットを1枚のスライドで伝えることです。以下の物件情報と市場環境を前提に、まずは論点を整理してください。(以下、特定情報を除いた箇条書き)」
Step 2:ターゲット別の訴求ポイントをブレスト
次に、提案先の候補ごとに訴求軸を複数出させ、人間が取捨選択します。
「この物件を購入・取得し得る富裕層(企業オーナー、ファンド、資産管理会社など)のペルソナごとに、刺さる訴求軸を5パターン挙げてほしい」と投げかけます。
AIから返ってきた回答に対しては、「3番の事業承継スキームに絡めた視点は良いが、2番の資産価値はもっと具体的な周辺開発計画を踏まえたい」と、人間側がフィードバックを与えます。
Step 3:構成案の批判的レビュー(壁打ち)
構成案ができたら、AIに「厳しいレビュアー役」を任せて弱点を洗い出します。
「この提案書をシビアな投資家や顧問税理士が見た場合、どの部分にツッコミや懸念が入るか?3つの弱点を指摘して」と指示します。浮き彫りになった論点を先回りして補強することで、提案書の説得力が大きく高まります。
Step 4:プレゼン用テキストのブラッシュアップ
論理展開が固まってから、初めてスライド用の文章に仕上げます。
「スライド1枚ごとに、ヘッドライン+要点3点+補足データ」の形式で文章を整えさせます。
この一連のやり取りには、確かに30分〜1時間程度の「対話時間」が必要です。しかし、ゼロから文章をひねり出し、スライド構成に迷う時間と比べれば、作業時間は大幅に短縮できたと実感しています。
士業のAI活用で、AIと専門家の役割分担はどうなるのか?
AIは「作業」を担い、専門家は「検証・判断・信頼構築」を担います。士業のAI活用は、専門家の仕事を奪うものではなく、専門家が本来の仕事に集中するための手段です。
「AIに資料作成を任せると、士業や専門家の仕事が奪われるのではないか」という議論があります。しかし、実務の現場における実感は全くの逆です。
| 業務領域 | 生成AIが担う役割 | 人間(専門家)が担う役割 |
|---|---|---|
| 初期リサーチ・整理 | 膨大な関連情報の要約、市場データの整理 | 情報の真偽検証、法的妥当性の最終確認 |
| アイデア出し | 多角的な切り口やパターンの大量提示 | クライアントの真の課題に合う案の「意思決定」 |
| 資料ドラフト作成 | スライド構成案、要約テキストの生成 | 現場の温度感や相手の心理に合わせた表現調整 |
| 戦略立案 | シミュレーションや想定される反論の洗い出し | 対面での信頼構築、関係者の意向を踏まえた論点整理 |
AIとの濃密な対話によって、構成検討や下書き作成といった「作業」の時間を大きく短縮できます。
そして、それによって生まれた時間とエネルギーを、「クライアントとの直接対話」「関係者間の複雑な権利関係の整理」「法的な論点を見極める判断」という、人間にしかできないコア業務に注ぎ込むことができるのです。
士業がAIを使うとき、守秘義務はどう守るのか?
士業がAIを活用する際は、依頼者の情報を守ることが大前提です。
行政書士には、行政書士法第12条により、業務上知り得た秘密を漏らしてはならない守秘義務が課されています。また、個人情報保護委員会も、生成AIサービスに個人情報を入力する際の注意を呼びかけています(出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」)。
そのため、AIに情報を入力する際は、次の点が基本になります。
- 氏名・住所・物件の所在地など、個人や案件を特定できる情報は入力しない
- 必要な情報は抽象化・一般化したうえで入力する
- AIの出力内容は、必ず専門家自身が事実確認する
当事務所でも、この点に十分配慮したうえでAIを活用しています。
行政書士事務所が生成AIを取り入れる理由は?
AIで作業時間を短縮し、その分をご相談者様と向き合う時間に充てるためです。
私たち行政書士アヴァンセ法務事務所が、生成AIをはじめとするDXツールの活用を進めているのは、単なる作業の効率化のためではありません。
相続手続き、会社の事業承継、M&Aに伴う事業譲渡、複雑な不動産の権利関係の整理――。
ご相談いただく案件はいずれも、お客様の人生や会社の将来を左右する重要なテーマばかりです。
型通りの書類作成に追われるのではなく、デジタルツールを活用して思考のスピードと密度を高める。そうして生み出した時間を、「目の前のご相談者様とじっくり向き合い、最善の解決策を練り上げる時間」に充てることこそが、現代の「街の法律家」に求められる誠実な姿勢であると考えています。
不動産を含む財産の承継については、記事「失われた30年、取り返した3年|資産インフレと相続・事業承継」で、事業承継M&Aの進め方については、記事「大阪の事業承継・M&A|支援制度・相談先を専門家の行政書士が解説」で詳しく解説しています。


よくある質問(FAQ)
Q. 生成AIの「壁打ち」とは何ですか?
A. AIを完成品の外注先ではなく、議論の相手として使う方法です。AIの案に人間がフィードバックを返したり、AIに厳しいレビュアー役を任せて弱点を指摘させたりしながら、段階的に内容を磨き上げます。
Q. 生成AIに丸投げすると、なぜ精度の高い成果物が出ないのですか?
A. 目的・前提条件・提案先といった文脈が伝わらないと、AIは一般的・平均的な回答を出力しやすいためです。専門家の判断軸を段階的にインプットすることで、成果物の精度が上がります。
Q. 壁打ちにはどのくらいの時間がかかりますか?
A. 本記事の事例では、4つのステップ全体で30分〜1時間程度の対話時間がかかりました。ゼロから資料を作る場合と比べて、作業時間を大幅に短縮できました。
Q. 士業がAIを使う場合、依頼者の情報は大丈夫ですか?
A. 個人や案件を特定できる情報は入力せず、抽象化・一般化したうえで活用することが基本です。AIの出力はそのまま使わず、専門家が事実確認と最終判断を行います。
Q. AIを使うと、相談対応の質は下がりませんか?
A. AIが担うのは、情報整理や下書き作成などの「作業」です。法的妥当性の確認や、ご相談者様に合わせた判断は専門家が行います。作業時間を短縮した分、ご相談者様と向き合う時間を確保できます。
まとめ:生成AIは「丸投げ」ではなく「壁打ち」で使う
生成AIは「丸投げ」ではなく「壁打ち」で使うことで、専門性の高い資料でも精度と時短を両立できます。ポイントは次の3つです。
- 前提情報(役割・目的・提案先・ファクト)を構造化して伝える
- AIの案に人間がフィードバックを返し、厳しいレビュアー役で弱点を補強する
- 個人や案件を特定できる情報は入力せず、最終確認は専門家が行う
そして、AIで短縮した時間を、ご相談者様との対話や専門的な判断に充てることが、士業がAIを活用する本当の価値だと考えています。
ご相談・お問い合わせ
「複雑に入り組んだ不動産の権利を整理したい」
「自社に適した事業承継・事業譲渡の手法を整理して提案してほしい」
そのようなお悩みがございましたら、行政書士アヴァンセ法務事務所へ、どうぞお気軽にご相談ください。
当事務所では、事業承継・M&A・相続対策・各種許認可・契約書作成など、経営者様やご家族の未来を支える法務サポートを行っております。当事務所は、中小企業庁のM&A支援機関登録制度における登録支援機関であり、一般社団法人M&A支援機関協会の会員です。
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監修: 行政書士アヴァンセ法務事務所(中小企業庁M&A支援機関登録済み/一般社団法人M&A支援機関協会会員)
