社長が認知症・事故で判断不能になったら会社はどうなる?成年後見の限界と定款対策

社長が認知症や事故で判断不能になった場合の会社経営リスクと成年後見の限界、定款対策を行政書士が解説する記事のアイキャッチ画像

オーナー社長が認知症や事故によって判断能力を失うと、株式の議決権を行使できなくなり、株主総会や取締役会が機能停止するリスクがあります。成年後見制度を利用しても裁判所の監督下に置かれるため、迅速な経営判断は困難です。今すぐ検討すべき対策の一つが「定款の見直し」です。

多くの経営者様は「事業承継はまだ数年先の話」とお考えかもしれません。しかし、病気や事故、そして将来的な認知症による判断能力の低下は、計画とは無関係に、ある日突然訪れます。

本記事では、経営者に判断能力の低下という不測の事態が生じた場合、会社にどのようなリスクが及ぶのかを、事業承継・M&Aを専門分野とする行政書士法務事務所の視点から、法的根拠に基づいて解説します。

目次

ある日突然、社長が倒れたら会社はどうなる?

会社法上、株式会社における最高の意思決定機関は「株主総会」であり、業務執行に関する重要な意思決定を行うのが「取締役会」です。

経営者(オーナー社長)が、事故による意識不明や認知症の進行によって自ら意思表示ができなくなった場合、この二つの機関が正常に機能しなくなるおそれがあります。特に、社長ご自身が会社の株式(議決権)の過半数を保有されているケースでは、そのリスクは会社の存続そのものに直結します。

「事業承継はまだ先のこと」という前提が崩れたとき、会社にどのような支障が生じるのかを、次の項で具体的に見ていきます。

データで見る「経営者の高齢化」と「不測の事態」のリスク

このリスクは、決して大げさな話ではありません。帝国データバンクが2026年4月に発表した調査によれば、2025年度の全国の社長の平均年齢は60.8歳となり、1990年の調査開始以来35年連続で過去最高を更新しています。また、60歳以上の社長が全体の52.6%を占めており、経営者の高齢化は一貫して進行しています。

さらに注目すべきは、後継者が決まらないまま事業継続が困難になる「後継者難倒産」の動向です。同調査では、2025年度の後継者難倒産は533件(前年度507件から5.1%増)にのぼり、3年連続で500件を超える高水準で推移しました。そのうち、経営者本人の病気や死亡が原因となったケースは全体の45.2%を占め、過去最多を更新しています。

つまり、後継者難によって倒産に至った企業のうち、約半数近くが「経営者に起きた不測の事態」がきっかけとなっているということです。これは、事業承継を先延ばしにしている経営者様にとって、決して他人事ではないデータといえます。

加えて、同社が2025年に公表した調査では、全国の企業の後継者不在率は50.1%、中小企業に限ると51.2%にのぼることも分かっています。後継者そのものが決まっていない企業が半数近くを占める中で、仮に経営者に不測の事態が生じれば、後継者の選定・育成すら進められないまま会社の意思決定が止まってしまう可能性があります。

株式の「凍結」がもたらす経営危機

議決権が行使できなくなるとどうなるか

オーナー社長が議決権(株式)の過半数を保有している場合、社長本人が認知症等により判断能力を欠く状態になると、株主総会そのものが有効に決議を行うことができなくなります。これは、会社の意思決定が事実上「凍結」される状態を意味します。

会社経営に生じる具体的な支障

議決権が凍結された場合、実務上、以下のような支障が生じます。

  • 役員の改選ができない:取締役の任期満了時に後任を選任する決議が成立せず、経営体制の更新が滞ります。
  • 重要な契約の承認ができない:株主総会や取締役会の決議を要する重要な契約について、承認手続きが進められません。
  • 銀行融資・資金調達が停止する:金融機関は意思決定機関が機能している会社を前提に融資判断を行うため、資金調達の交渉自体が困難になります。
  • M&Aが進められない:会社の売却や事業譲渡を検討したくても、株式の譲渡契約を締結する主体(社長本人の意思確認)が欠けるため、手続きを進めることができません。

事業承継やM&Aを将来的な選択肢として持っておきたい経営者様にとって、この「意思決定停止」のリスクは看過できない問題です。

成年後見制度の限界とは

Q. 社長が認知症になった場合、成年後見制度を利用すれば問題は解決しますか。

A. 成年後見人が選任されれば、財産管理などの代理は可能になります。しかし、成年後見人の行動は家庭裁判所の監督下に置かれるため、会社経営に求められる「迅速かつ果敢な投資判断」や柔軟な意思決定は、原則として認められにくい仕組みになっています。そのため、成年後見制度だけでは、経営の現場で生じる支障を十分に解消することはできません。

つまり、成年後見制度は「本人の財産を守る」ための制度であり、「会社の経営を止めない」ための制度ではない、という点を正しく理解しておく必要があります。

なお、成年後見制度(せいねんこうけんせいど)とは、認知症などで判断能力が不十分になった方に代わり、財産管理や契約行為などを行う人を家庭裁判所が選任する制度です(民法第7条以下)。本人の財産保護を目的とする制度であるため、会社経営を継続するために必要な迅速な投資判断や契約締結は、原則として認められにくい傾向があります。経営の現場では、この点が実務上の大きな支障となる場合があります。

認知症以外にも備えるべき「突発リスク」

本記事のテーマは認知症を中心に取り上げていますが、実務上は事故や急病による意識不明というケースも同様に重要です。

認知症の場合は「判断能力の低下」が段階的に進むケースが多い一方、事故や脳血管疾患による意識不明では、判断能力の喪失が前触れなく、即座に発生します。この場合、成年後見の申立てから審判が下るまでには一定の期間を要するため、その間、会社の意思決定は完全に停止した状態が続くことになります。

前章でご紹介したデータからも分かるように、経営者の高齢化が進む中小企業においては、認知症・事故・急病のいずれについても「まだ先のこと」ではなく、「今のリスク」として捉えることが重要です。

事業承継やM&Aの現場を専門とする行政書士の立場から見ても、経営者に起きた不測の事態は、事業承継やM&Aの「タイミングを逃す」大きな要因になります。将来的にM&Aによる会社の譲渡を選択肢の一つとして考えている経営者様ほど、株式の議決権が凍結してしまえば、いざという時に交渉自体を進められなくなる点に注意が必要です。

まとめ|「今すぐできるリスク管理」としての定款見直し

上記の記事で紹介している「3つの事業承継(親族内・従業員・M&A)」は、いずれも経営者様が「元気なうちに計画的に進めること」を前提としています。

しかし本シリーズでお伝えしたいのは、その前提が崩れた場合、つまり明日、突発的な事故や病気によって経営者様の判断能力が失われた場合に、会社をどう守るかという視点です。

この「今すぐできるリスク管理」の具体的な手段として、会社法が中小企業(譲渡制限会社)に認めている制度があります。次回は、この制度を活用した「VIP株」「ヒーロー株」と呼ばれる仕組みについて解説します。

→ 次回:属人的株式(VIP株・ヒーロー株)とは?会社法109条2項が認める中小企業のリスク対策(第2回に続く)

会社の将来的なリスクに備えた定款の見直しについて、まずは現在の定款の内容をご確認いただくことをお勧めします。なお、定款の変更内容の検討・作成は行政書士の業務範囲に含まれますが、株主総会での決議後に法務局へ行う登記申請は司法書士の専属業務となるため、実際の手続きでは司法書士とも連携しながら進めることになります。ご相談は当事務所までお気軽にお問い合わせください。


(出典:株式会社帝国データバンク「全国『社長年齢』分析調査(2025年)」2026年2月発表、および「倒産集計 2025年度報」2026年4月発表)

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