民法改正で遺言・成年後見制度はどう変わる?経営者向け解説

民法改正による遺言制度・成年後見制度の変更点を解説するイメージ画像

令和8年6月24日、遺言制度と成年後見制度を大幅に見直す「民法等の一部を改正する法律」が公布されました。自筆証書遺言をパソコンで作成し法務局に保管できる「保管証書遺言」の創設、後見・保佐・補助を「補助」に一元化する成年後見制度の見直しなどが柱です。本記事では、事業承継・相続対策を検討する経営者様に向けて、変更点と施行時期、今からできる備えを解説します。

※本記事は2026年9月2日時点の公表情報(法務省民事局の概要資料)に基づきます。制度の詳細は今後の政令・法務省の公式情報で確定するため、最新情報は法務省ホームページでご確認ください。

目次

今回の民法改正で何が変わる?

遺言制度と成年後見制度の双方について、「使いにくさ」を解消する方向で見直されました。

改正の背景には、高齢化の進展や単独世帯の増加による相続・後見ニーズの多様化、自己決定権を尊重する理念の高まり、デジタル技術への対応の必要性があります。柱となる改正点は以下のとおりです。

分野主な改正内容
遺言制度パソコン等で作成した遺言データを法務局に保管する「保管証書遺言」の創設、押印の任意化
成年後見制度後見・保佐を廃止し「補助」に一元化、必要な範囲・期間に限定した利用が可能に
任意後見制度監督人選任の柔軟化、法定後見(補助)との併用を許容

いずれも既に成立・公布された内容ですが、実際に使えるようになるのはこれから(後述)です。まずは制度ごとの変更点を見ていきましょう。

遺言制度はどう変わる?「保管証書遺言」とは

「保管証書遺言」は、パソコン等で作成した遺言データを法務局に保管してもらえる新しい遺言の方式です。

これまでの自筆証書遺言は、財産目録を除く本文を本人が手書きする必要があり、高齢の方や多忙な経営者様には負担でした。新設される保管証書遺言では、次のような手続きが可能になります。

  • パソコン等での作成が可能:手書き不要で、署名(電子署名を想定)があれば足ります
  • オンラインでの保管申請:データまたはプリントアウトしたものを法務局に提出
  • ウェブ会議を利用した手続き:法務局(遺言書保管官)が相当と認める場合、自宅からの手続きが可能
  • 本人確認と全文の口述:なりすまし防止・真意確認のため、本人確認と遺言内容の口述(または通訳・自書)が必要です
  • 押印は任意化:自筆証書遺言・秘密証書遺言を含め、押印要件が廃止されます
  • 家庭裁判所の検認が不要:法務局が保管するため、相続開始後の検認手続きが省略されます

自社株や複数の不動産など事業用資産をお持ちの経営者様にとっては、内容の作成・修正のしやすさと、相続開始後の手続きの円滑化の両面でメリットがあります。

成年後見制度はどう変わる?「補助」への一元化とは

改正後は、後見・保佐の制度が廃止され、本人に必要な範囲だけ代理権・同意権を付与する「補助」の制度に基本的に一元化されます。

現行制度は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」のいずれかが画一的に決まり、特に後見は財産管理の権限が包括的になる点が課題でした。

項目現行制度(後見)改正後(補助への一元化)
権限の範囲財産管理全般の包括的な代理権・取消権遺産分割・不動産売買など特定の行為に限定した代理権
利用のやめやすさ判断能力が回復しない限り原則継続必要がなくなれば家庭裁判所の判断で終了可能
本人の意向考慮要素の一つ選任時の考慮要素の冒頭に位置付け、意向把握を義務化

主な変更点は次のとおりです。

  • ピンポイントでの利用が可能:「遺産分割協議の間だけ」「自社株や不動産の売買の間だけ」といった限定的な利用ができます
  • 目的達成後に終了できる:判断能力が回復していなくても、必要がなくなれば制度利用を終了できます
  • 本人の意向がより強く尊重される:支援者(補助人)の選任・交代の判断で、本人の意見が重視されます
  • 死後事務の権限が拡充:補助人が本人の死亡後、火葬・埋葬契約や未払費用の支払いなど、必要な事務を行えるようになります

なお、事理弁識能力を欠く常況にある方については、法定の重要な財産行為をまとめて取り消せる「特定補助」の仕組みを選択することも可能です。

任意後見制度もより柔軟に

任意後見制度は、監督体制や他制度との併用の面で使いやすく見直されます。

  • 家庭裁判所が明らかに不要と認めるときは、任意後見監督人を選任せず家庭裁判所が直接監督することが可能に
  • 法定後見(補助)を利用しても任意後見契約を存続できるようになり、権限が重複する場合は契約の一部解除で調整
  • 本人が公正証書で指定した人も、任意後見契約を発効させる裁判手続きを申し立てられるように

将来の判断能力低下に備えてご家族や専門家へ財産管理を託す「任意後見」を、事業承継の準備と組み合わせやすくなる改正といえます。

経営者・事業承継を検討する方への実務的な影響

今回の改正は、事業承継の場面で課題となりやすい「認知症による資産凍結」「遺言作成の負担」を軽減する方向に働きます。

  • 自社株・事業用資産の承継がスムーズに:パソコンで作成できる保管証書遺言により、遺言の作成・見直しのハードルが下がります
  • 資産凍結リスクを柔軟に回避:必要な期間だけ補助制度を利用できるため、株式譲渡や事業譲渡など重要な意思決定が長期間ストップするリスクを抑えられます
  • ご家族の負担軽減:検認不要・オンライン化により、相続開始後の手続き負担が軽くなります

事業承継の準備は、財務・法務の両面から早めに着手することが重要です。あわせて「事業承継で社長が最後に残すべきもの」「大阪の事業承継・M&A」もご参照ください。

いつから使える?施行日と経過措置

今回の改正は「公布」された段階であり、実際に使えるようになる施行日は制度ごとに異なります。

制度施行日の目安
保管証書遺言(システム改修を要するもの)公布(令和8年6月24日)から3年以内
遺言制度のその他の見直し(押印の任意化など)公布から1年以内
成年後見制度(補助への一元化など)公布から2年6か月以内

施行日は今後、政令で確定します。現在すでに成年後見制度(後見・保佐・補助)を利用している方は、経過措置により基本的に現行内容で利用を継続でき、新制度への切り替えや利用終了の申立ても可能です。施行前に締結された任意後見契約も、施行後は改正後の任意後見契約法が適用されます(施行前に生じた効力は維持されます)。

よくある質問(FAQ)

Q. 保管証書遺言は今すぐ作成できますか?

A. いいえ、まだ作成できません。保管証書遺言はシステム改修を要するため、公布(令和8年6月24日)から3年以内に施行される予定で、施行日は今後政令で定められます。現時点では、既存の自筆証書遺言・公正証書遺言などの方式をご検討ください。

Q. 今、後見・保佐制度を利用している場合はどうなりますか?

A. 経過措置により、基本的には現行制度の内容のまま利用を継続できます。新制度(補助)への移行や、制度利用の終了を希望する場合は、それぞれ家庭裁判所への申立てが可能です。

Q. 事業承継の準備として何から始めればよいですか?

A. 自社株・事業用資産の整理状況や後継者の有無によって最適な備え方は異なります。遺言・任意後見の活用も選択肢の一つですので、事業承継に詳しい当事務所のような行政書士に早めにご相談いただくことをおすすめします。

まとめ

令和8年6月24日に公布された民法改正により、遺言制度は「保管証書遺言」の創設・押印任意化、成年後見制度は「補助」への一元化により、いずれも本人の意思を尊重しながら使いやすい制度へと見直されます。ただし施行はこれからであり、遺言制度は公布から最長3年以内、成年後見制度は公布から2年6か月以内とされています。

当事務所は、中小企業庁M&A支援機関登録/(一社)M&A支援機関協会会員として事業承継・M&Aをご支援するほか、公益社団法人コスモス成年後見サポートセンターとも連携し、遺言書作成・成年後見・生前対策のご相談に対応しております。制度改正をきっかけに、元気なうちから事業承継・相続の準備を始めませんか。


監修: 行政書士アヴァンセ法務事務所(中小企業庁M&A支援機関登録済み/M&A支援機関協会会員)

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